大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和27年(行)41号 判決

原告 丸和石油株式会社

被告 向島町長

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十七年十二月二十六日向庶第二六六号を以て為した危険物貯蔵所設置許可申請却下の行政処分は之を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

原告は石油類販売業者で営業用揮発油・軽油・機械用油・貯蔵タンク各一基、同重油タンク二基、合計五基を原告の所有地である広島県御調郡向島町一六〇五八番地の八に設置しようとしているが、石油類は消防法第十二条に規定する所謂危険物であるので同法第十二条により右設置箇所市町村条例の定めるところにより町長の許可を受けることを必要とするので、原告は向島町条例第五十八号危険物取締条例(以下単に条例と略称)第二十四条乃至第二十六条所定の構造位置設備等についての基準に則り、同条例所定の形式を整えた上、被告に対し昭和二十七年七月八日に貯蔵所設置許可の申請をし、その後装置の安全を期するため被告の指示により右申請を撤回し、更に同年十一月八日右条例所定の条件を整備した上再び申請をした。

原告は右設置箇所附近には他店のタンクも既設してあるし右申請の数箇月前にも設置許可になつた例もあり、被告及所轄御調地区警察署長は共に許可してもよいとの意向をもつているという風に聞いていたので前記番地の敷地五百坪を買受け工事の準備もしていたが、被告は昭和二十七年十二月二十六日になつて条例第四条第二項の末尾を「但し周囲の状況その他特別の事情があると認める場合は許可しないことができる」と改正してこれを施行した上原告の右申請を却下し、向庶第二六六号を以て其旨を原告に通達して来た。

然しながら右申請却下の処分は条例第四条第二項但書の解釈を誤り同条所定の裁量の範囲を逸脱した違法の処分であるから取消さるべきである。即ち消防法第十二条に基く右市町村条例所定の許可は以下補述する趣旨により所謂法規裁量を定めたものであり自由裁量を許すものではない。

凡そ自己の所有地に自己の費用を以て自己の営業に必要な製造所貯造所等の施設を設置することは本来自由であるべき筈であるが、油類は危険物であるからこれを放任することは公共の福祉に適合しないので、消防法第十条第四項に於て「製造所貯造所及び取扱所の位置構造及び設備の制限についての必要な事項」を市町村条例の定めるところに委任し、同法第十二条第一項に依てその施設が右制限を定めた条例に適合するか否かの認定権を市町村長に与えたに過ぎない。従つて被告に与えられた右許否権の行使は之によつて原告の本来の自由権を制限することゝなるからかゝる許否権を定めた規定は無制限な裁量を許したものとは言えない。

故に被告が原告の許可申請を却下する行政処分の根拠とした改正条例第四条第二項但書の「但し周囲の状況その他特別の事情あると認める場合は許可しないことが出来る」という規定の法意はその許否の裁量の範囲が基本法たる消防法第一条に明記する「火災を予防し警戒し………社会公共の福祉の増進に資する」所謂消防目的の範囲内に於て消防上必要な範囲に限らるべきものとするという意であつて、本来科学的客観的な判断に基き之に覊束さるべく、全く被告たる町長に専慾な自由裁量権を与うる趣旨ではない。

若しこの条例を以て被告がその主張するような自由裁量権を与えた趣旨であると解すれば、前記基本法たる消防法第十条第十二条の委任の本旨を逸脱し、基本法以上に強大な財産権の制限を規定するものとなり、其はもはや憲法第九十四条の許容する条例とはいえない。

それ故に右条例所定の条件を完全に具備する以上は、もはや科学的な危険性はなく且公共の福祉に適合したものといふべく、必ずその申請を許可すべきものであり、条件を具備するにもかゝはらず被告が之を許可しないことが出来るという裁量の余地は存しないものである。

にも不拘、被告は何ら科学的に原告の申請を調査検討することなく、出願以来荏苒時日を徒過しながらその間町民の反対に動かされて政治的な理由に依るものか、昭和二十七年十二月二十五日になつて遽かに前記条例の改正を行い恣にその「特別事情云々」という一般条項を濫用して原告の許可申請を却下したもので、その行政処分は明らかに前記裁量の範囲を逸脱した違法な処分である。

しかも本件出願地附近には以前から他店の同種石油貯蔵所が許可されているし、現に本件処分のあつた数箇月前にも許可された例があり、これと何ら条件が異つていない本件申請のみを不許可にするということは明らかに被告たる町長の右判断が正鵠を欠くものと言うほかなく、更に被告は原告の許可申請を受理した後相当日数を経て、愈々処分を行ふに際り、昭和二十七年十二月二十五日条例を改正し、この改正条例に基づいて同月二十六日右申請を却下したのであつて、右処分は申請当時の法令を適用せずして擅に処分時の法令を遡及適用したものであるから法令不遡及の原則に反するもので違法な処分であると言うべく以上いずれの点よりするも取消さるべきものである。と述べ、被告の本案前の抗弁事実を否認し、本件タンクは原告が所有するものであつて同タンクは訴外丸善石油株式会社から買受けた石油を貯蔵するためのものであるから、右タンク設置の申請に対する却下処分の取消を求める本訴請求は訴の利益を有するものであると陳述した(立法省略)。

被告訴訟代理人は、「原告の請求はこれを棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、本件石油タンクは訴外丸善石油株式会社の所有であり原告の所有ではないので本件許可申請の却下処分は何等原告の権利を侵害するものではなく、従つて訴の利益を欠くものであるからこの点に於て既に原告の請求は棄却さるべきものである。と述べ、本案につき、原告は石油類の販売業者であること、原告主張の場所にその主張するような営業用揮発油・軽油・機械用油貯蔵タンク各一基、同重油タンク二基、合計五基の設置を計画し、原告主張の日時に被告に対し原告主張の如き、条例所定の形式を備えた許可申請書が提出されたこと、及びその申請書の内容が原告主張の如く之に関する同条例所定の条件に適合していること、附近には他店の既設タンクもあり又右申請の数箇月前には設置許可になつた例があること、原告が前記敷地を買受けたこと、昭和二十七年十二月二十五日向島町議会に於て前記条例第四条第二項に但書を設け同月二十六日施行し、原告の右申請を却下したこと、この間危険性の有無については科学的な鑑定はしていないこと、並びに右却下処分を向庶第二六六号を以て其旨原告に通達したことを認め、その余の事実を否認し、被告が原告に対して昭和二十七年十二月二十六日向庶第二六六号を以て為した危険物貯蔵所設置許可申請却下の行政処分は、改正条例第四条第二項但書の規定を適用して「出願地は四面海を環らした孤島に等しい地であつて、一朝有事の際の救援避難等は遽かに万全を期することは至難な状況下にあるにもかかはらず、近年急速に住宅街として人口増加すると共に生徒一千を収容する向島中学校等の重要施設もあるので、現在以上に危険物の貯蔵施設が増置されることは消防上危険がある」との事実を認め、同条所定の裁量権の範囲内に於て、将来公共の福祉を害する虞があるものとして、前記但書の「周囲の状況その他特別の事情ある場合」に該当すると判断して却下したものであつて、以下布衍する理由により被告は何等原告主張の如く右条例所定の裁量を誤る違法な処分を行つたものではない。

而して原告出願にかゝる油貯蔵タンクの設置場所は小歌島と称する小島の埋立地に位し、全島の面積は十五町歩、周囲は一千間四面海を以つて囲まれた小島で、人口は現在九十一世帯三百八十四人居住し、人家が密集して住宅地をなし、その数は日々に増加しつゝある現状である。しかも設置場所附近には工場町営住宅倉庫等が近接し、現に広島ゼネラル物産株式会社の住宅兼事務所はきわめて近接した位置にある。加うるにその埋立地内には九棟千三十坪を有する向島中学校(教職員二十九名生徒数七百七十名を擁す)があり、これらの人々の出入が激しいにもかゝはらず向島本島との通路としては僅かに一箇所長さ八間幅二間の狭い架橋があるのみであるから、火災その他有事の際の生徒住民職工等の避難は極めて困難な状況にある。

一方埋立地内には、(一)消防法発布前設置された日本電信電話公社尾道海底電線工事々務所々有の重油タンク小型三基、(二)昭和二十三年十二月二十三日許可設置された出光興産株式会社尾道出張所向島油槽所所有の重油タンク二基、(三)昭和二十七年四月十四日許可設置された株式会社広島ゼネラル尾道油槽所所有の重油タンク二基、合計七基が既に存在して居ることは事実であるが、これらが許可された事情は右貯蔵タンクはいずれも重油のみであつて周囲に及ぼす危険性も現在の状況とは異つていたので許可されたのであるが、現状に於てこれ以上に原告の申請タンクが増置されゝばこれらは重油の他揮発油、軽油、機械油を含むからこれ等の油が極めて強い引火性を有し、火災となれば前記タンクに引火誘発する恐れがあり、従つて戸数人口急増の状態にある同島の現況からみて、一朝火災その他の事故を惹起するときは主要設備を烏有に帰する虞があるのみならず、人身に及ぼす危害も予測し難い。

即ち現在これ以上原告の油貯蔵タンクが設置されるということは、現在及将来に於て小歌島部落附近人家工場並びに学校教職員一般町民の生活の安全性に脅威を与えるものである。それだからこそ本件許可申請がなされるや小歌島部落民同島中学校教員父兄並びに立花村部落民多数が反対運動を起すに至つたものである。そこで被告は本件許可申請について許可処分前口頭で所轄御調地区警察署の意見を求めたのであるが、これに関する同署長の意見は同所に現在以上貯蔵所を設置することは公衆に対する被害を倍加し危険であるから右申請は却下すべきであるとの意見であつたのでこれ等の意見を参酌して、被告町当局は正しい民意を尊重するため、昭和二十七年十二月二十四日町議会を招集し、所謂タンク設置問題を同議会に諮つたところいずれも設置に反対意見であり、且同議会に於て条例改正の議が起つたので同月二十五日その条例第四条第二項に但書を追加改正し、これに基き前記理由で向庶第二六六号により原告の許可申請を却下したものである。

従つて前述の如き事情を考慮して条例第四条第二項但書に則り本件許可申請を却下した被告町長の前記処分は、何等右条例により与えられた申請許否権の裁量を誤つた違法の処分ということは出来ない。

そもそも右条例が消防法制定の目的精神を達成するため危険物の貯蔵所及取扱所の設置につき市町村長の許可を受くべきことを定めた以上、市町村長はその許否決定に当つてはその定めた条例に拠るべきことは勿論であるが消防法の目的精神に副うべく慎重を期すべきことは言うまでもないことである。従つて危険物の貯蔵所設置が災害の虞れあり、若しくは社会公共の福祉を阻害する虞あると認められる場合に於ては市町村長はその貯蔵所設置許可申請を拒否し得る権能を有するものと言わなければならない。出願条件さえ条例に適合していれば以上のような災害は発生せず、公共の秩序及び福祉に害なきものであり、町長は必ず許可すべきで却下の裁量権はないとする原告の主張は不当である。蓋し法律が市町村長の許可を受けなければならないとの規定を設けた所以のものは、単に許可出願の内容事項が条例に適合するかどうかの形式的審査権を市町村長に与えたに過ぎないものではなく、市町村長は叙上の実質的な審査認定をもなし得る権限を与えられているものとしなければならない。そうでないとすれば許可を受けなければならないという規定は極めて形式的なものとなり、その実を失うに至るからである。

又本件許可申請却下処分は法令不遡求の原則に反する違法なものではない。即ち危険物貯蔵所設置許可申請の法律上の性質はその申請に対する町長の許可処分を要求する一種の行為にすぎず特許権又は鉱業採掘出願の如く出願それ自体に権利を附与されるものではなく、従つて既得権又は法令不遡求の問題は起らない。

原告の出願は十一月八日で却下決定は十二月二十六日であるから、その間相当な日子を要しているが右日子は被告に於て、本件施設が社会公共の福祉増進を阻害する虞がないか否かを調査研究するために費した必要な期間であつて、条例の改正とは何等の関聯もなく、又条例は出願に対して許可不許可の処分をなすべき期間については何等の規定がないから右期間の経過が違法だとはいえない。

而して、被告町の条例は原告主張の如く改正されたのであるが許可出願に対して許否の決定をなす場合に於てはその時に於ける条例を適用すべく申請当時の条例によるべきでないことは勿論であるから、被告が改正条例を適用し許可申請を却下したのは当然である。

以上いずれの点からするも原告の本件行政処分取消の請求は失当であるから、棄却せらるべきものであると陳べた(立証省略)。

三、理  由

先ず被告訴訟代理人の本件石油タンクは訴外丸善石油株式会社の所有であり、原告の所有ではないので本件許可申請の却下処分は何等原告の権利を侵害するものではなく、従つて訴の利益を欠くからこの点に於て既に原告の請求は棄却さるべきものであるとの本案前の抗弁について考えるに、証人宮地昇の右趣旨にそう証言部分は遽かに措信し難く、かえつて証人三間士郎の証言原告代表者吉村省三の当事者訊問の結果を綜合すれば、原告は本件設置許可を受けるため五百万円余りを投じて本件敷地五百坪を買入れた他、タンク三基の向島までの引航及び棧橋の払下その他に五百余万円合計千余万円を投じてその所有権を取得し、且右タンクに貯蔵する油は原告が訴外丸善石油株式会社より買受け貯造するもので、訴外丸善石油株式会社は単にその建設資金を原告に融資し、貯油所の設計施工等を援助監督する関係にあるのに過ぎない事実が認められるから被告の右抗弁は理由がない。

仍つて進んで本案について審理するに、原告は石油類の販売業者であること、原告の主張する場所にその主張するような営業用揮発油軽油機械油重油各貯蔵タンク合計五基の設置を計画し被告に対し原告主張の如き条例所定の形式を備えた許可申請書が提出されたこと、及びその申請書の内容が原告主張の如く之に関する同条例所定の条件に適合していたこと、附近には他店の既設のタンクもあり又右申請の数箇月前にも設置許可になつた例があること、原告が前記敷地を買受けたこと、昭和二十七年十二月二十五日向島町議会に於て前記条例第四条第二項に但書を設け、「但し周囲の状況その他特別の事情があると認める場合は許可しないことが出来る」と改正し、同月二十六日原告の右申請を却下したこと、この間危険性の有無について科学的な鑑定等はしていないこと、並びに右却下処分も向庶第二六六号を以てその旨原告に通達したことは当事者間に争がない。

そこで本件石油類貯蔵所が設置された場合周囲に及ぼす危険性について考えると、右設置箇所たる向島町小歌島の地勢・人口住家施設等の地理的条件並びに設置箇所附近の情況がほゞ被告主張の如きものであることは証人林原省三同高岸信行の各証言並びに被告本人の当事者訊問の結果と検証の結果を綜合して認め得るけれども、鑑定人日下和治の鑑定の結果によれば、本件貯蔵所がその申請内容通り条例所定の要件を具えて設置された上、更に右鑑定人作成の鑑定書に記載された消防設備器具の充実避雷針の増設完備電気器具の改善によるスパーク引火の防止「シヤワー」設備による油類の冷却気化防止等の防火措置の改良充実がなされ、更に防火壁を設置するとか油類が外部に溢出することを防ぐとか施設場所を変更して近接家屋の火災に備えるとかして防火施設の考慮を計れば、戦時天災等の稀有の場合は格別として(この場合については後記のとおり判断する)、科学的な見地より見てその危険性は経験則上絶無に近いと判断されることを相当とする。

従つてこのような事情の下に本件貯油所が設置されたとすれば証人林原省三の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第七号証の一乃至三十二の各陳述書に記載された署名によつて窺はれる向島町民及立花村一部々落民多数の反対陳情の意思も殆んど合理的な根拠を欠く恐怖心に基因するものと言うべく、これを以て、危険性を立証する証拠となすことは出来ない。

そもそも消防法第十二条により認められる市町村長の許否権が自由裁量であるか、それとも法規裁量であるかについては争の存するところであるが、右は結局同規定に基く市町村条例によつて右許否について自由裁量を認め得るか否かの争いに帰着するところ、消防法が危険物の貯蔵所等の設置について守るべき準則を自から政令その他の一般法規に委任して定めず之を個別的に市町村条例に委任した所以は、市町村に恣意的な制限を為すことを認めたものではなく、単に各市町村の実情に則して制限をなすことが消防目的からする危険防止上妥当であるとされたものに他ならないと解すべきことは同法の趣旨から明らかであるから、条例によつて定め得る制限も消防目的よりする危険防止の趣旨を逸脱するものであつてはならないことは当然であり、従つて自由裁量といゝ法規裁量というも所詮は程度の問題であるが、少くとも明らかに右の危険が存在し得ない場合に於ても尚且条例に於て申請を却下し得るような裁量権を認める如き定めをなすことは許されないというべきである。飜つて本件向島町の危険物取締条例について之を観ると、同条例は第四章第二十四条乃至第三十四条、第五章第三十六条乃至第四十一条に於て、危険物の貯蔵所等の構造設備並びに消火設備等について詳細な制限を規定しながら、その第四条第二項但書に於て「但し周囲の状況その他特別の事情があると認める場合は許可しないことができる」と規定しているのであるが、右但書の趣旨は上来説いたところにより明らかな如く町長に消防上の危険防止以外の特別事情による許否権を認めたものではなく、申請が一応条例所定の条件を充すも尚且「周囲の情況その他特別の事情により」消防上の危険が存すると認める場合に之を却下し得る余地を残したものに過ぎないと解すべきである。蓋しかく解することによつてのみ右規定は合理的な意味を持ち得るものであり、若しも反対に解釈すべきものとするならば該規定は原告主張の如く消防法の委任する範囲を超えた無効のものとなるであろう。

しかのみならず該申請が一応条例所定の条件を充している以上仮に「周囲の状況その他特別の事情」によりそれのみでは危険防止上不充分であると認められる場合でも、充分な危険防止の措置が客観的に不能であるか又は申請人の主観的事情により不能であることが明白である場合以外は、一応その不充分な点を充足すべきことを命じた上、尚且之を充足しない場合始めて右但書の規定に該当するものとして該申請を却下し得るものであつて、只単に条例所定の条件を具備するのみでは危険防止上不充分であるとの理由丈では却下することは出来ないものと解すべきである。蓋しかく解さなければ消防法が第十条に於て危険物の製造所貯蔵所等の位置構造設備等の制限につき必要な事項を条例で定むべきことを規定したことは無意味となり、かかる条例の規定を信頼したものとして不測の損害を蒙らしめる虞があるからである。

扨て、本件申請が条例所定の要件を具備せること、並びに右申請による貯蔵所の設置が条例所定の要件に従つたのみを以てしては必ずしも危険防止上十分とは言えないが、しかし原告が前掲補足的措置を講ずることによつて危険防止を為し得ることはさきに説示した通りであつて、右補足的措置を講ずることが申請人たる原告に於て不能な主観的事情があると推測せしめる資料は全然なく、寧ろ、証人宮地昇同三間士郎同村上敏行の各証言並びに原告代表者吉村昌造の当事者訊問の結果、証人三間士郎の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証の二及び鑑定人日下和治作成にかゝる鑑定書の記載並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被告は原告の許可申請当時之に対して許可意見であつたゝめ、原告は本件敷地を買入れ申請手続その他条例の調査検討をなし、資材の買入搬入その他の準備工事等に千万円余りの巨額の投資をして会社の営業の基本となる固定施設である石油類貯蔵所を設置しようとするもので、このような事情の下にあつた原告に対して申請当時被告町長が若し予め申請書の不充分な点を充足すべきことを命じたならば、当然原告はその修正に応じて防災条件の完備を企る意図を充分有していたものと解するを相当とする。

然らば被告が原告に対して昭和二十七年十二月二十六日向庶第二六六号を以て危険物設置許可申請を却下した行政処分は、成立に争のない甲第一号証既に成立を認めたる乙第七号証の一乃至三十二の各記載被告本人村上義輝の当事者訊問の結果を綜合すれば、被告が向島町民その他多数の本件石油貯蔵所設置に対する反対の陳情に動かされてその民意に則ふため正規の改正手続に基づき条例第四条第二項を改正し、その改正規定を根拠として被告町長が「本件危険物貯蔵所が増置されることは将来公共の福祉を害する虞れがある」旨認定して本件申請を却下したものであることを認められるにもかかわらず、前記認定の如く右処分は客観的合理的根拠に乏しい裁量権の範囲を逸脱した判断を内容とするのであつて、戦時天災等の稀有の場合の危険性も、鑑定人日下和治作成にかかる鑑定書の記載並びに原告代表者吉村昌造の当事者訊問の結果によれば、前記認定のような防災施設を完備することは勿論之と相俟つてこのような場合には油を貯蔵しないとか又は関係当局の指導に従うとかして危険の予防解決の方法が存することが窺われるから、危険性の有無を誤認して為した被告町長の本件却下処分の裁量は条例第四条第二項但書の規定を誤り適用した違法な処分と言わなければならない。仍つて被告の右処分は取消さるべきものである。

故に爾余の点を判断するまでもなく原告の本訴請求は理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 柴原八一 胡田勲 林田益太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!